診察室を訪れる保護者から頻繁に受ける相談の一つに、「頭の形がいびつで左右非対称になっている。脳に障害が出るのではないか」という不安があります。しかし、ここにはインターネット上の言説によって増幅された誤解が少なくありません。
まず前提として、新生児の頭蓋骨は非常に柔らかく、狭い産道をスムーズに通過するために骨同士を重ね合わせる応形機能(モールディング)を備えています。そのため、出産直後の赤ちゃんの頭が前後に長かったり、尖った形状をしていたりするのは極めて自然な現象であり、生後数週間から1ヶ月程度で自然な丸みを帯びていきます。
生後1ヶ月以降に生じる頭の歪みの大部分は、いつも同じ方向を向いて寝る「向き癖」による位置的頭蓋変形症(斜頭症・短頭症)です。外圧によって頭蓋骨の一部が平坦化する現象であり、これ自体が脳の実質的な知能発達を阻害することは基本的にありません。一部のネット情報では「頭の歪みが発達障害を引き起こす」といった科学的根拠を欠く主張が見受けられますが、小児脳神経外科の確立されたエビデンスにおいて両者の直接的な因果関係は否定されています。
ただし、前述の「頭蓋骨早期癒合症」との鑑別は欠かせません。位置的な変形であれば、寝姿勢の工夫やタミータイム(うつぶせ遊び)、必要に応じた医療用ヘルメット治療による矯正が選択肢となりますが、骨癒合症の場合は外科的手術が適応となります。触診で頭蓋骨の縫合部に沿って硬い骨の隆起(堤防状の盛り上がり)があるか否かが鑑別の鍵となります。