室内で細長い多足類を発見した際、反射的に新聞紙やスリッパで叩き潰そうとする人が後を絶ちません。しかし、害虫防除の観点において、この「叩き潰す」という初動は最悪の悪手を招きます。
第一に、ヤスデを室内で潰してしまうと、前述のベンゾキノンを主成分とする悪臭体液が周囲に飛散します。フローリングや畳に落ちた体液は黄色く変色し、洗剤で拭いても容易には落ちない頑固な染みと異臭を残します。さらに、気化した刺激成分を吸い込むことで、呼吸器系の粘膜を痛めるリスクすら生じます。
第二に、ムカデを叩き潰す行為にも大きな危険が潜んでいます。「ムカデを潰すとフェロモンでつがいが復讐にやってくる」という都市伝説がネット上で散見されますが、これには半分正しく半分誤った解釈が含まれています。ムカデが同胞を呼ぶ「復讐フェロモン」を出す科学的根拠はありません。しかし、ムカデは単独行動を基本としつつも、餌場となる暗湿な閉鎖空間に複数匹が引き寄せられる習性があります。1匹が存在するということは、同じ環境下にもう1匹が潜んでいる可能性が極めて高く、潰す際の衝撃音や死骸の体液臭が周囲の隠れ潜む個体を刺激し、思わぬ場所からの飛び出しを誘発するリスクは現場で実証されています。
室内で見かけた場合は、決して物理的に叩き潰さず、マイナス数十度で瞬間冷却する凍結スプレーで動きを止めるか、粘着テープ等で密閉捕獲するのが鉄則です。