世間一般において「ボートレーサー=高収入のプロアスリート」というイメージは定着しています。日本モーターボート競走会の公式統計によると、全登録選手の競艇選手平均年収は約1,800万〜2,000万円とされており、プロ野球やJリーグに匹敵する高水準を誇ります。しかし、この数字の裏には過酷極まりない階級格差が潜んでいます。
ピラミッドの頂点であるA1級(全体の約20%)に所属するレーサーの平均年収は約3,500万〜4,500万円以上に達し、トップ20名ともなれば1億円の大台を優に突破します。一方で、最下層のB2級レーサーの平均年収は約500万円前後にとどまり、あっせん(出場配分)日数の制限や遠征経費を差し引くと、一般サラリーマンと変わらない手取りになるのが現実です。
この格差社会を数十年にわたり生き抜いたレジェンドたちが築き上げるのが競艇生涯獲得賞金の記録です。「王者」と呼ばれる松井繁選手は、前人未到の生涯獲得賞金40億円を突破し、今なおその記録を更新し続けています。歴代の獲得賞金トップクラスには山崎智也氏、今村豊氏、池田浩二選手、瓜生正義選手らが名を連ね、生涯で数十億円を稼ぎ出しています。
だが、その華やかな数字と引き換えに背負うリスクは甚大です。選手たちの手記やOBの回顧録で共通して語られるのは、「フライング(F)という死刑宣告への恐怖」です。スタート事故(FやL)を起こせば即座に厳しい出場停止ペナルティが科され、SGやG1の選出除外要件に抵触します。事故率が基準値(0.70)を超えればB2級への強制降格、さらには引退勧告の足音が迫るという極限のプレッシャー下で、彼らは時速80kmのボートを操り続けているのです。