インターネット上の料理コミュニティやショート動画において、「絹さやは背側の筋さえ取れば、腹側は細いから取る必要がない」「片側だけで時短できる」という言説が散見されます。しかし、この情報の真偽をプロの料理人の調理工程や官能評価から精査すると、明確な盲点が存在します。
確かに、絹さやの腹側の筋は非常に細く、収穫直後の極めて若い個体であれば口に障らないケースもあります。しかし、一般のスーパーマーケットに並ぶ流通品は、収穫から数日が経過しており、繊維化が進行している個体が少なくありません。
日本調理科学会の研究資料等でも示されている通り、加熱によってさやの果肉組織(柔細胞)は柔らかくなりますが、維管束は硬さを維持するため、加熱後にかえって筋の硬さが際立ちます。腹側の筋を残したまま提供された料理を食べると、後味にモソモソとした糸のような異物感が舌の上に残り、繊細な出汁の風味やシャキッとした心地よい歯切れが根本から損なわれます。
また、「片側だけ引こうとする」こと自体が、前述した「途中でブツッと切れる」トラブルの温床になります。片側だけを無理に引き剥がそうとすると、ヘタ周辺に不自然なねじれ応力がかかり、結果的に背側の筋まで途中で千切れてしまうのです。腹側から先端を経由して背側へと一筆書きで抜くプロのルートこそが、結果として最も失敗が少なく、時間的にも最速で終わる合理的な手法です。