では、そもそもなぜ韓国では産後の肥立ちにわかめを食べるようになったのでしょうか。そのルーツを辿ると、古代の海洋生物観察に端を発する驚くべき伝承に行き当たります。
唐代の百科事典的文献『初学記』や朝鮮半島の古文書には、高麗時代の人々が海辺で目撃した記録が残されています。そこには、「海中で子どもを産んだクジラが、傷を癒やすために群生するわかめを貪るように食べていた。これを見た高麗の人々が、わかめが産後の止血と回復に極めて効能が高いことを知り、産婦に食べさせるようになった」と記されているのです。
この民間伝承は、単なるおとぎ話にとどまりません。科学的な観点から見ても、わかめに豊富に含まれるヨウ素(ヨード)は甲状腺ホルモンの分泌を促して新陳代謝を活発にし、豊富なカルシウムと食物繊維、鉄分は出産で失われた血液を補い、子宮の収縮をサポートする理にかなった栄養素です。
韓国の伝統社会では、産婦のために良質なわかめを買い求める際、決して値切ってはならないという厳格なしきたりが存在しました。市場で一番長く、形の整った最高級のわかめを「産母用(サンモヨン)」と呼び、それを折り曲げずに丁寧に持ち帰って調理したと伝えられています。わかめを折ることは、生まれてくる赤子の寿命を縮めたり、難産を引き起こしたりする不吉な行為と信じられていたためです。一杯のスープには、何世代にもわたって紡がれてきた生命誕生への祈りが濃縮されています。