坊という怪物のごときキャラクターに、どこか憎めない愛嬌と人間味を与えた立役者が、千と千尋の神隠しで坊の声優を務めた神木隆之介です。収録が行われた2001年当時、神木隆之介は小学校2年生の7歳(映画公開時は8歳)。現在でこそ日本を代表する実力派俳優として知られますが、当時は子役としてのキャリアを歩み始めたばかりの無垢な少年でした。
スタジオジブリの制作ドキュメンタリーや当時の関係者インタビューによると、スタジオに現れた神木少年の第一印象について、宮崎駿監督は「なんとも言えない無垢さと、子ども特有の残酷さをそのまま声に宿している」と高く評価したと伝えられています。大人の声優がどれほど幼い声を繕っても出せない「本物の児童が放つ甘えと理不尽な癇癪」を、神木少年はマイクの前で自然体で表現してみせました。
「神木隆之介の坊役当時」の現場エピソードとして有名なのが、千尋の腕を力任せに握りしめて骨を折ろうとする場面の迫真の演技です。テスト収録の段階から、屈託のない笑みを浮かべながら平然と残酷な脅し文句を口にする神木の演技に、スタッフ陣は息を呑んだと記録されています。この坊役での鮮烈な実績が、その後の『ハウルの動く城』(マルクル役)や『借りぐらしのアリエッティ』(翔役)というジブリ作品での継続的な起用、ひいては声優・俳優としての揺るぎないキャリアへと直結していきました。