日本全国の風景から公務員宿舎が次々と消え去った背景には、明確な契機があります。それが国家公務員宿舎の廃止理由の根幹をなす、2011年秋の「朝霞宿舎建設問題」とそれに続く東日本大震災の復興財源議論です。
当時、増税議論が吹き荒れる中で埼玉県朝霞市に巨額の国費を投じて建設中だった大型公務員宿舎に対して、国民から激しい反発が巻き起こりました。当時の政権は建設中止を決定し、これを受けて財務省は「財務省公務員宿舎削減計画」を策定。全国で約21万8,000戸存在していた宿舎を約5万戸(25%以上)削減し、不要となった資産を徹底的に処分する方針を打ち出しました。
計画の進展により、地方や大都市郊外の老朽宿舎を中心に統廃合が加速。跡地の売却を進める国家公務員宿舎の売却現状を見ると、東京都心の好立地にあった物件は数億〜数十億円規模で民間デベロッパーに競売・売却され、超高級分譲マンションや商業施設へと変貌を遂げました。この資産売却益は復興財源や国庫返納に充てられた一方、現場の職員には深刻な「宿舎難民問題」を突きつける結果となっています。
その象徴として今も議論の俎上に載るのが、東京都江東区にそびえる東雲住宅(公務員宿舎)です。地上36階建て・総戸数900戸を超える免震タワーマンションとして建設された東雲住宅は、災害時の緊急招集要員などを収容する防災拠点としての役割を持ちます。しかし、一般的な職員が暮らす築古団地との凄まじい格差から、同じ公務員の間でも「東雲に住めるのは特権官僚だけではないか」「一般職員は昭和の廃墟に放り込まれる」といった不満の象徴として語り継がれています。