ショートケーキが日本人の国民食となった決定打は、1950年代半ばから始まった「クリスマスケーキ=いちごのショートケーキ」という文化的刷り込みにあります。この仕掛け人は、不二家が展開した大々的な販売戦略でした。敗戦からの復興期、アメリカ軍が持ち込んだ豊かな消費文化と「クリスマス」という異国の祝祭は、豊かさと平和の象徴として日本社会に急速に浸透していきました。
不二家は「クリスマスには家族でケーキを囲もう」というキャンペーンを打ち出し、店頭にサンタクロースとペコちゃんを並べ、ホール型のいちごショートケーキを前面に押し出しました。この戦略が爆発的な成功を収めた要因について、社会心理学の研究者らは「日本人の伝統的な色彩感覚との合致」を指摘しています。
生クリームの「白」といちごの「赤」は、古来より日本人が祝祭の儀礼で用いてきた「紅白」の配色そのものです。神道の神事や正月の鏡餅に飾る橙(だいだい)のように、清浄を表す白に生命力を示す紅を添える色彩構造は、無意識のうちに日本人の深層心理にあるハレ(非日常)の祝意を刺激しました。さらに、高度経済成長に伴い核家族化が進む中、直径15〜18cmの丸いホールケーキを均等に切り分けて家族で分け合う行為は、幸福な家庭像を具現化する視覚的・空間的な装置として極めて機能的だったのです。