「役所に絶縁届を出せば親子の縁を切れるのではないか」と考える人は少なくありません。しかし、現行の日本法(民法)において、実の親子関係を一方的な意思や手続きによって完全に消滅させる制度は存在しません。昔の慣習にあった「勘当」や「絶縁」は法的な効力を一切持たないのが現実です。
実親子関係が法的に消滅するのは、原則として「他家の特別養子縁組(原則6歳未満・例外的に15歳未満を対象とする制度)」を結んだ場合のみに限られます。成人に達した子どもが自らの意思で法的な親子関係を白紙に戻す手段はありません。
戸籍を分ける「分籍届」の誤解と実態
親と距離を置く手段として「分籍(ぶんせき)」が知られています。20歳以上(成人)であれば、親の戸籍から抜けて自分を筆頭者とする単独の戸籍を編製することが可能です。
ただし、分籍はあくまで「戸籍の記載形式を分ける行政手続き」に過ぎず、血縁関係や法的な親子関係を断ち切るものではありません。新しく作られた戸籍にも実父母の氏名は明記され、戸籍謄本を遡れば親子関係は容易に証明されます。親族関係が消えるわけではない点に注意が必要です。
民法第877条が定める「直系血族の扶養義務」
法的な親子関係が継続する以上、避けて通れないのが民法第877条第1項に規定された「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」という原則です。
親子間の扶養義務は、自分の生活を犠牲にしてまで相手を養う「生活保持義務(配偶者や未成熟子に対する義務)」とは異なり、自分の生活水準を落とさない範囲で援助を行う「生活扶助義務」と解釈されています。しかし、法的な義務自体が消滅するわけではないため、後述する行政からの問い合わせや親の困窮時に通知が届く法的な根拠となります。