昭和・平成の時代、子どものグラグラした歯にタコ糸を巻き付け、ドアノブに結びつけてドアを勢いよく閉める、あるいは大人が一瞬で引っ張るといった「歯の抜き方として昔から知られる糸を用いた荒療治」が広く知られていました。SNSや動画サイトでも面白半分に再現されることがありますが、小児歯科医の現場からは強い警告が発せられています。
糸を巻き付けて瞬間的な衝撃で引き抜く手法には、以下のような決定的な危険性が潜んでいます。
・歯肉の裂傷と過剰出血:糸が歯茎に食い込み、粘膜を深く切り裂いて激しい出血を引き起こします。
・歯根の残存骨折:急激な外力によって歯根が途中で折れ、歯茎の中に破片が取り残されるリスクが高まります。残った根は後から化膿し、後続の永久歯の形成不全を誘発する要因になります。
・小児のトラウマ形成:予期せぬ衝撃と激痛は子どもに強い恐怖心を植え付け、将来的な歯科治療全般に対する「歯科恐怖症」の引き金となります。
医療器具が未発達だった過去の民間療法と、現代の清潔で安全な口腔ケア基準を混同してはなりません。現代の医療水準において、糸を使った力任せの抜歯を行うメリットは皆無です。