ジャコウアゲハの幼虫が生涯の中で最もドラマチックな変貌を遂げるのが「蛹化(ようか)」の瞬間です。成熟した終齢幼虫は食草を離れ、近くの木の幹や壁、岩場などを這い登って安全な場所を探します。そこで糸を吐いて自らの体をしっかりと固定し、前蛹から蛹へと脱皮を遂げます。
この蛹の形が、日本の民俗学や怪談史において非常に有名な「お菊虫(おきくむし)」の正体です。怪談『播州皿屋敷』で井戸に投げ込まれて非業の死を遂げた腰元・お菊の怨念が虫になったと信じられ、江戸時代中期の姫路城下で大ブームを巻き起こしました。
ジャコウアゲハの蛹を観察すると、胸部が大きく反り返り、両脇がくびれた異様な突起構造を持っています。この姿が、後ろ手に縄で縛られた女性が髪を振り乱して悶え苦しんでいる姿に酷似していたことから、当時の人々はお菊の亡霊と結びつけました。寺社で「お菊虫」として高値で売買された記録も残っており、生物学的な特異性が日本人の文化や信仰にまで深く刻まれた稀有な例といえます。