かつての怪異談における「ぬらりひょん」は、どこか憎めない、あるいは滑稽な居座り妖怪として描かれることが多かった。だが現代において、他者の生活空間や精神領域にぬめっと侵入し、主導権を奪っていく行為は、極めて悪質なマインドコントロールや寄生型犯罪そのものだ。
作者はこの古典的なイメージを実に巧妙な現代的レトリックに置き換えた。境界線(バウンダリー)を容易に越えてくる者たちの図々しさと、それに対してNOと言えない人間の弱さ。作品が照射するのは、妖怪そのものの恐ろしさというよりも、人間の心理的隙間にスルリと入り込む悪意の構造なのだ。