映画『もののけ姫』を象徴する言葉といえば、劇場用ポスターに刻まれた「生きろ。」と、劇中でアシタカがサンに告げる「生きろ、そなたは美しい」です。この簡潔にして強烈な言葉が定着するまでには、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫氏と、稀代のコピーライター・糸井重里氏の間で、数か月に及ぶ壮絶なファックスの応酬がありました。
当時の制作ドキュメンタリーや関係者の証言記録によると、糸井氏から最初に提案されたキャッチコピー案は、どこか叙情詩的あるいは男女の愛憎に焦点を当てたものが主流でした。しかし、宮崎駿監督が本作に込めていた切迫したテーマ性と合致せず、膨大なボツ案が積み重なることになります。
宮崎駿監督が執拗に求めたのは、閉塞感や先の見えない不安が蔓延していた日本社会に対し、安易な希望や慰めを提示することではありませんでした。「環境破壊をやめれば森は戻る」といった甘い環境保護思想ではなく、人間と自然が血を流し合う矛盾を抱えながら、それでもなお生存しなければならない過酷な宿命。それこそが、監督の胸の内にあった「生きろ」の真意だったのです。