「アスペリティ(asperity)」という言葉は、もともと摩擦工学や物理学のトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑を扱う学問)において、「物体の表面にある微小な突起や粗さ(ごつごつした部分)」を意味する用語です。一見すると平らに見える金属や岩石の表面も、顕微鏡レベルで見れば無数の凹凸が存在します。2つの物体を重ねて引っ張ったとき、実際に接触して強い摩擦力を生み出しているのは、この突起同士が噛み合っている微細な接触点です。
この物理概念を巨大な地球の断層面に応用したのが、1980年に地震学者のソーン・レイ(Thorne Lay)と金森博雄(Hiroo Kanamori)が提唱した「アスペリティモデル」です。地下の断層面や沈み込むプレート境界は、全体が均一なツルツルの板ではなく、場所によって滑りやすさが全く異なります。普段は周囲の岩盤がじわじわと動いていても、ごつごつと強く噛み合って絶対に動かない「頑固な突起領域」が存在し、ここが集中的にエネルギーを蓄積していきます。
地震調査研究推進本部(地震本部)の公式定義においても、アスペリティは「プレート境界や活断層の断層面上で、通常は強く固着しており、ある時に急激にずれて(すべって)地震波を放出する領域のうち、周囲に比べて特にすべり量が大きい領域」と規定されています。普段動かないからこそ歪みが極限まで濃縮され、破壊された瞬間に壊滅的な揺れを生み出す震源となるのです。