この場所の原点を語る上で欠かせないのが、文化人類学者であり環境運動家の辻信一氏の存在だ。1990年代末、スピードと効率ばかりを追い求める現代社会に疑問を投げかけた辻氏らは、環境文化NGO「ナマケモノ倶楽部」を設立した。「スロー・イズ・ビューティフル」という合言葉は、瞬く間に感度の高い人々の心を捉えた。
立ち止まることは、後退ではない。むしろ豊かさの再発見である――その思想をリアルな場として具現化したのがこのカフェだった。ファストフードが席巻した街の一角で、種から育てられた米を炊き、フェアトレードの豆を丁寧にドリップする。その営みは当時、無謀な挑戦と囁かれたこともあった。しかし四半世紀が経過した今、その信念は確固たる社会の潮流へと育っている。