2020年秋、体に異変を感じて受けた検査で告げられたのは、進行した大腸がんというあまりにも酷な現実だった。8時間に及ぶ手術と、それに続く過酷な抗がん剤の副作用。手足の痺れは、トランペットを吹く指先から命とも言える感覚を奪い去ろうとした。
「もう以前のように吹けないかもしれない」。絶望が脳裏をよぎる夜もあった。しかし、病室のベッドで彼を支え続けたのは、再び音楽を届けるという強い執念だった。リハビリの日々は想像を絶するものだったが、焦らず一歩ずつ、声を取り戻し、指の感覚を養い直す地道な努力が続けられた。