現場の空気は常に張り詰めていた。長渕は演技プランを頭で構築するのではなく、その場で生まれる感情の爆発を最優先する。台本にないアドリブや突発的な感情の昂ぶりに対し、冨永もまた一歩も引くことなく真っ向から応戦した。
「本気でぶつかってこい」という長渕の無言のプレッシャーに対し、彼女は持ち前の強靭なメンタリティで対峙。張り詰めた緊張感のなかで生まれた信頼は、やがて撮影現場全体を包み込む大きなうねりとなった。互いの表現に対する妥協なきリスペクトがあったからこそ、あの夫婦の濃密な空気感がフィルムに焼き付けられたのである。