蜷川の稽古場といえば、灰皿や竹箒が飛び交い、容赦ない罵声が響き渡る戦場として知られていた。当時、若手実力派として急速に頭角を現していた小栗も、その例外ではなかった。「下手くそ」「帰れ」「お前の芝居には愛がない」。容赦なく浴びせられる言葉の刃に、足が震え、胃が絞られるような日々。しかし、小栗は逃げなかった。
どんなに打ちのめされても、翌朝には目を真っ赤にしながら立ち上がり、台本にしがみついた。蜷川が見抜いていたのは、小栗の中に眠る底知れぬ強かさと、表現者としての狂気だった。追い詰められ、逃げ場を失った時に見せる一瞬の輝き。それこそが、蜷川が若き小栗から引き出そうと渇望していた「本物の感情」だったのだ。