八宝菜で最も失敗しやすい具材が、全体の主役である白菜です。「強火で一気に炒めればシャキシャキになる」というネット上の言説を信じ、家庭のコンロで生の白菜を炒め始めた瞬間、フライパンの温度が急降下して浸透圧で水が染み出し、炒め物ではなく「白菜の煮物」に化けてしまった経験を持つ読者は少なくないはずです。
プロの厨房では大量の高温油にサッとくぐらせる「油通し」を行いますが、家庭で油通しを再現するのは油の処理や安全面から現実的ではありません。そこで考案されたのが、料理研究家や現場の料理人が推奨する「油+塩の湯通し(油湯)」というアプローチです。
白菜の細胞壁を構成するペクチンは、約80度前後の温度帯でカルシウムと結合すると硬化し、食感を保ちやすくなる性質があります。熱湯1リットルに対して「サラダ油小さじ1」と「塩小さじ1」を加え、沸騰したところに芯の部分を投入して20秒、その後に葉の部分を入れてさらに10秒浸けてザルに上げます。この工程により、油の微細な油膜が野菜の表面を薄くコーティングし、細胞膜を保護して内部の水分が外へ逃げ出すのを物理的に遮断します。
さらに重要なのが包丁の入れ方です。白菜の白い芯部分は繊維に対して垂直に切ると細胞が破壊されて水分が出やすくなるため、繊維に沿って包丁を寝かせながら削ぎ切りにするのが正解です。表面積が広がり、火の通りが均一化されると同時に、短時間の湯通しだけで芯まで理想的な歯ごたえを残すことが可能になります。