「しっかりペーパータオルで水気を拭き取ったはずなのに、小鉢に盛って10分もするとタレがシャバシャバに薄まってしまう」――この現象は、野菜表面の水分ではなく、わけぎ特有の組織内部から浸出する水分が原因です。わけぎの葉の空洞部には、ペクチンなどの多糖類を主成分とするゼリー状の粘液(ぬめり)が含まれています。この組織が加熱によって破壊されると、内部に閉じ込められていた水分とともに外へ出ようとします。
さらに決定的なのが「浸透圧」の作用です。味噌や砂糖、酢を合わせたタレは塩分・糖分濃度が高いため、わけぎと接触した瞬間から内部の水分を急速に吸い出します。十分な脱水処理を行わずにタレと混ぜ合わせると、浸透圧によって内部から水分が溢れ出し、酢味噌の乳化バランスが崩壊してしまいます。
この問題を一挙に解決するプロの技法が、茹で上げた後の「しごき出し」です。冷水で冷やしたわけぎの水気を軽く切り、まな板の上に根元を揃えて並べます。包丁の背やすりこ木、あるいは指の腹を使い、根元から葉先に向かって余分な水分と内部の過剰なぬめりをしごき出すように押し流します。このひと手間を挟むだけで、タレが薄まる物理的要因を根本から遮断し、心地よい歯ごたえだけを凝縮させることが可能になります。