「妊活中のお酒は本当に一杯も飲んではいけないのか」という疑問に対し、生殖医療の現場から導き出される結論は、「男女で作用機序とリスクの時間軸が全く異なるため、それぞれ別個の基準で判断すべき」というものです。
女性の場合、体内に入ったアルコールは肝臓で分解される過程で毒性の強いアセトアルデヒドへと変化します。女性は男性に比べて肝臓のサイズが小さく、体内の水分量も少ないため、同じ飲酒量でも血中アルコール濃度が急上昇しやすい特徴があります。さらに、日本人の約40%はアセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH2)の活性が低い、いわゆる「お酒ですぐ赤くなる体質」です。専門医の臨床データによると、この低活性型の女性が習慣的に飲酒した場合、卵胞の発育不全やエストロゲン・プロゲステロンといった女性ホルモンの分泌バランスの乱れを引き起こしやすいことが分かっています。
一方で、見落とされがちなのが妊活中のお酒が男性に与える影響です。かつては「女性さえ控えていれば問題ない」と軽視される傾向にありました。しかし、近年の男性不妊研究では、アルコールが精巣内のライディッヒ細胞にダメージを与え、男性ホルモン(テストステロン)の分泌を直接低下させることが判明しています。さらにアルコールによる酸化ストレスは、精子の運動率低下や奇形率の上昇を招くだけでなく、受精後の初期胚の細胞分裂や着床不全、さらには胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)に関わるエピジェネティックな変異リスクにまで関与していると学術論文で指摘されています。
つまり、女性は「ホルモン分泌と卵子・子宮内膜の環境」、男性は「遺伝子情報の担い手である精子の健全性」という異なる次元で影響を受けるため、どちらか一方だけの節酒では十分な効果が得られないのが実情です。