松山の食を語るうえで、全国的な知名度を誇る「鯛めし」の定義には決定的な注意が必要です。愛媛県内には、まったく調理法の異なる2系統の鯛めしが存在します。
一つは、出汁と昆布とともに鯛を丸ごと一匹土鍋で炊き込み、身をほぐして混ぜ合わせる「中予・松山鯛めし」。もう一つは、新鮮な真鯛の刺身を特製のタレ、生卵、薬味と和えて熱々のご飯に乗せて食べる「南予・宇和島鯛めし」です。松山市内の松山鯛めし人気店(例えば「五志喜」や「かどや」「秋嘉」など)では、両方の食べ比べメニューを用意している店舗も多く、観光客の間で熾烈な人気争いが続いています。週末の昼時は1時間以上の行列が常態化しているため、昼の開店直後か13時半以降のピークアウトを狙うのが賢明です。
一方、観光客がノーマークになりがちでありながら、地元松山市民が熱烈に偏愛し続けている真のソウルフードが「鍋焼きうどん」です。銀天街の細い裏路地に暖簾を掲げる鍋焼きうどん松山名店の二大巨頭、「ことり」と「アサヒ」は、全国の麺好きが巡礼に訪れる聖地として知られています。
運ばれてくるのは、年季の入ったアルミ製の小鍋。蓋を開けた瞬間に立ち上る甘い煮干しと昆布の芳醇な香り、そして口に運んだ瞬間に衝撃を受ける「強い甘みを含んだ澄んだ出汁」と「柔らかく煮込まれた優しい麺」のハーモニーは、讃岐うどんの強いコシとは正反対のカルチャーショックをもたらします。牛肉や刻み揚げ、ネギが上品に乗った一杯は、どこか懐かしく、旅の疲れた胃袋を芯から温めてくれます。両店ともに売り切れ次第終了(概ね14時前後には閉店)となるため、お昼前の早めの訪問が必須です。