「アムとイムの歌」を深く考察する上で欠かせないのが、メカトピアの歴史と「神様(創世の科学者)」の存在です。「アム」と「イム」という名は、旧約聖書に登場する人類の祖「アダム」と「イブ(エバ)」を明白にオマージュしています。
かつて、人間の身勝手さや争いに絶望した科学者(メカトピアの神様)は、理想郷を築くべく最初のロボットである「アム」と「イム」を造り出しました。しかし、3万年という気の遠くなる時間の中で、メカトピア社会は特権階級による労働ロボットの搾取、さらには地球人を奴隷化するための侵略計画へと舵を切ってしまいます。なぜ、神の理想郷は歪んでしまったのでしょうか。
ファンコミュニティや文芸批評でも指摘されている通り、この楽曲は「メカトピア社会が本来あるべき姿から乖離してしまったことへの問題提起」そのものでした。
神様がアムとイムに最初に与えたプログラム、すなわち「ひとつめは愛(すべてが一つであること)」だけでは、社会に自立が生まれません。そこで与えられた「ふたつめに願い(あなたはあなた、私は私)」という個の意識。しかし、個と個が分断された結果、ロボットたちは他者への無関心や利己的な競争心を暴走させてしまったのです。
物語終盤、しずかちゃんと共に3万年前のメカトピアへタイムトラベルしたリルルは、死の間際にある神様に代わり、アムとイムの電子頭脳に「他人を思いやるあたたかい心」を書き込みます。この瞬間、未完成だった歌の3行目が劇的な変化を遂げます。
「みっつめに想う あなたの幸せを」
自分と相手が違う存在(他者)であることを認めた上で、それでもなお「相手の幸せ」を願うこと。それこそが神様が本当に望んでいた世界の完成形であり、アムとイムの歌に隠された真のメッセージだったのです。