夏野菜カレーの主役でありながら、最も失敗しやすいのが「なす」と「ズッキーニ」の扱いです。これらを煮崩れさせず、かつ紫色やエメラルドグリーンを鮮やかに保つためには、浸透圧と酵素の働きをコントロールする下ごしらえが欠かせません。
まず、なすの鮮やかな紫色は水溶性のアントシアニン系色素「ナスニン」によるものです。ナスニンは空気に触れてポリフェノールオキシダーゼ(酸化酵素)が働くと、急速に褐色へと変色します。これを防ぐプロの技法は、切った直後のなすに1%程度の薄い塩水を吹きかけるか、軽く塩を振って5分置くことです。浸透圧の差によって内部の余分なアクと水分が表面に浮き出ます。これをペーパータオルで丁寧に拭き取った後、皮目に格子状の隠し包丁を入れてから油でコーティングします。このひと手間で、油の吸収量を約15〜20%抑制しつつ、熱の通りを均一にできます。
一方のズッキーニは、厚みを1.5cm〜2cmの厚切り輪切りにするのが鉄則です。薄切りにすると繊維が熱に負けてへたってしまいますが、厚みを持たせることで外側は香ばしく、中心部はみずみずしいジューシーさをキープできます。素揚げを行う際の油温は180℃〜185℃の高温を保ち、揚げ時間はなすが約90秒、ズッキーニは約60秒の短時間で引き上げます。高温短時間で表面のタンパク質と糖をキャラメリゼさせることが、鮮烈な彩りとパリッとした歯ごたえを死守する境界線となります。