フラッシュの嵐の中、中川の目は宙を泳いでいた。「えー、バスク……」と意味不明な言葉を呟き、質問した記者を睨みつけるような仕草を見せる。すぐ隣には、日本銀行総裁の白川方明が硬直した表情で座っていた。世界経済がリーマン・ショックの泥沼に喘ぐ最中、日本の舵取りを担うツートップの会見は、瞬時に国際的な嘲笑の的となった。
ローマG7酩酊記者会見の映像は、瞬く間に世界中の通信社を通じて拡散。国内では野党からの問責決議案提出、そして即座の辞任劇へと発展した。だが、会見直前まで中川がこなしていたハイレベルな政策協議の内容に耳を傾ける者は、あの狂乱の渦中には誰一人いなかった。