ジブリ作品には、インターネット上で都市伝説やダークな考察が過熱しやすい傾向があります。『猫の恩返し』においても、「猫の国は死後の世界(黄泉の国)であり、ムタはその案内人である死神なのではないか」「ルナルド・ムーンは前世で人間だったのではないか」といったセンセーショナルな噂が長年にわたり語られてきました。
こうしたネット上の言説について、制作陣の公式発言や脚本の変遷を検証すると、これらは作品の本質を見誤った根拠のない拡大解釈であることが明確になります。
森田宏幸監督が当時のインタビューで語っている通り、『猫の恩返し』の核にあるのは「自分を律して、自分の時間を生きる」という思春期の自立です。猫の国は死者の国ではなく、日常のストレスや自己責任から逃避したいという「モラトリアムの象徴」として設計されています。猫になってしまえば楽に生きられるという甘い誘惑に負けそうになるハルを、手荒く現実に引き戻すのがムタさんの役割でした。
彼が湖の魚を食べ尽くしたという伝説も、おどろおどろしい犯罪ではなく、「あまりの食欲のために一晩で池を空っぽにしてしまった」という童話的な誇張表現です。都市伝説的な深読みをするよりも、日常の延長線上にあるユーモアと、生きることへのたくましいエネルギーを肯定的に受け止めることこそが、作品を真に楽しむための正しい視点といえます。