「大人の発達障害の手帳取得理由」の深層を取材すると、単なる税制優遇や交通費割引以上に、「雇用のミスマッチからの脱却とメンタルヘルス防衛」が決定打となっている現実が浮き彫りになります。
定型発達者中心の一般枠で長年勤務し、周囲の「空気を読む」ことへの過度なエネルギー消費、同時並行処理でのミス多発、感覚過敏による疲弊から二次障害(うつ病や適応障害)を発症して休職・退職に追い込まれる当事者が後を絶ちません。こうした過適応の限界を迎えた際、自身の特性を公表したうえで業務内容や環境の配慮を求める「オープン就労」へと舵を切るための切符が、精神障害者保健福祉手帳です。
障害者雇用促進法に基づく法定雇用率は段階的に引き上げられており、民間企業における精神障害・発達障害者の雇用ニーズはかつてない高まりを見せています。手帳を取得することで、企業に対して以下のような「合理的配慮」を法的な根拠を持って要請することが可能になります。
- 指示やマニュアルの「口頭」から「テキスト・箇条書き」への変更
- 聴覚過敏を緩和するためのノイズキャンセリングイヤホンの装着やパーテーション設置
- 突発的なマルチタスクの排除と、定常業務へのタスク固定化
- 体調に応じた時差出勤や通院のための定期的な有給休暇取得
また、再就職に向けた助走期間として「就労移行支援」事業所を活用する道も拓かれます。生活リズムの再構築、ビジネススキルの習得、自身の得意・不得意の言語化(自己理解)を進め、専門スタッフが企業との間に入って特性と職場環境を擦り合わせるプロセスは、ASD当事者が長期的に安定就労を続けるための大きな足がかりとなっています。