肩で息をする状態とは、医学的には「呼吸補助筋を用いた努力呼吸(補助呼吸)」と呼ばれる病態に該当する。安静時の人間は、吸気時に横隔膜が約7割、外肋間筋が約3割の役割を担っており、首や肩の筋肉はほとんど動かない。胸部が穏やかに上下するだけで、十分な換気量が確保されているためである。
だが、気道の狭窄や肺胞の破壊、あるいは心機能の低下によって十分な酸素が血液中へ送り込めなくなると、脳の呼吸中枢(延髄)は「酸素が足りない」という猛烈な警戒アラートを発する。この危機的状況を打開するため、動員されるのが胸鎖乳突筋や斜角筋、僧帽筋といった首・肩周囲の筋肉群である。これらの筋肉を強制的に収縮させて鎖骨や胸郭を無理やり引き上げ、胸腔を広げて少しでも多くの空気を取り込もうとする動作が、外見上「肩を激しく上下させて息をする」姿となって現れる。
日本呼吸器学会の指針でも指摘されている通り、呼吸補助筋が常時作動している状態は、車に例えれば「エンジンが焼き付きそうな状態でアクセルを床まで踏み続けている」に等しい。呼吸筋そのものが酸素を大量に消費するため、やがて筋肉が疲労困憊(呼吸筋疲労)を起こし、突然の呼吸停止(換気不全)へ暗転する危険性をはらんでいる。肩呼吸は単なる苦しさの表現ではなく、「呼吸不全が破綻寸前である」という明白な身体のSOSに他ならない。