映画『秒速5センチメートル』のクライマックスといえば、大人になった遠野貴樹と篠原明里が東京・参宮橋の踏切ですれ違う名シーンです。通り過ぎた瞬間にふと足を止め、お互いに振り返ろうとした瞬間、走行する小田急線の電車が無情にも二人の視界を遮ります。
電車が通過したあと、そこに明里の姿はありませんでした。この幕切れに対し、初見の観客からは「救いがない」「すれ違ったまま終わるなんて辛すぎる」という声が噴出しました。しかし、貴樹がその場で浮かべた微かな微笑みには、非常に前向きな意味が込められています。
新海誠監督自身が各種インタビューで語っている通り、明里はすでに過去を美しい思い出として整理し、新しい人生を歩み始めていました。一方の貴樹は、中学生時代の想い出に囚われ続け、心だけが立ち止まったまま大人になっていたのです。踏切で彼女の不在を確認した瞬間、貴樹はやっと「彼女はもう前を向いている」と悟り、自らも過去の執着から解放されて新たな一歩を踏み出す決意を固めました。あのラストは絶望ではなく、精神的な自立と再生を描いた名演出です。