アシダカグモが「最強の天敵」と呼ばれる理由は、その特異な捕食生態にあります。一般的なクモのようにクモの巣(網)を張って獲物を待つのではなく、夜間に壁や天井を縦横無尽に走り回って獲物を探す「徘徊性(はいかいせい)」のハンターです。これにより、室内に鬱陶しい巣を張ってホコリを溜める心配が一切ありません。
その狩りの手腕は精密機械のように研ぎ澄まされています。視力は退化しているものの、全身に生えた微細な感覚毛で空気のわずかな揺れや床の振動を感知し、秒速数十センチに及ぶ瞬発力で獲物に飛びかかります。ゴキブリが危険を察知して逃げ出す隙すら与えず、強靭な牙(鋏角)で急所を挟み込み、獲物を麻痺させる消化液を注入します。
特筆すべきは、その貪欲な狩猟本能です。アシダカグモには「抱え込み捕食」と呼ばれる行動が観察されており、1匹の獲物を捕食している最中に別のゴキブリが視界に入ると、手元の獲物を脚で器用に押さえつけながら、もう1匹に襲いかかる習性を持ちます。1晩で大型ゴキブリを2〜3匹仕留めることも珍しくありません。一般住宅においてアシダカグモが2〜3匹定着した場合、約半年から1年でその家屋内のゴキブリはほぼ根絶状態に追い込まれると推計されています。
そして最大の驚異は、ターゲットが全滅した後の去り際です。アシダカグモにとっての定住条件は「豊富な餌」のみです。屋内のゴキブリや大型昆虫を食べ尽くして飢餓状態に陥ると、彼らはその家に執着することなく、餌を求めて自ら屋外や別の家屋へと旅立っていきます。人間が何もしなくても、任務を完了すれば自然と退去していく点も「軍曹」と呼ばれる所以です。