三菱UFJ信託銀行や海外プライベートバンクがまとめた富裕層リサーチによると、純資産3,000万米ドル(約45億円)以上を保有する超富裕層は、自身の資産ポートフォリオの約5%前後を絵画や彫刻といった「コレクション資産(パッション・インベストメント)」に配分する傾向が定着しています。なぜ、伝統的な金融商品で莫大なリターンを叩き出せる彼らが、わざわざ美術品という扱いづらい現物資産を買い求めるのでしょうか。
第一の理由は、伝統的金融資産(株式・債券)との価格相関性の低さです。2020年代半ばにかけて激化した地政学リスクや為替の乱高下において、歴史的な評価が定まった名品(ブルーチップ・アート)は極めて強固な価値保存機能を発揮しました。紙幣の価値が目減りするインフレーション局面において、世界で唯一無二の希少性を持つ美術品は、ゴールド(金)以上の保全能力を発揮する現物シェルターとして機能します。
しかし、富裕層が美術品投資に向かう動機は、純粋な経済合理性だけでは説明がつきません。社会学者ピエール・ブルデューが提唱した「文化資本」の理論が示す通り、優れた芸術作品を所有し理解することは、単なる金銭的富を超えた「洗練された階級の証明」として機能します。自著やインタビューでアート収集を公言する世界的起業家たちの多くは、アートを介して世界的なメガギャラリーの重鎮やトップコレクターのインナーサークルへ参入し、通常のビジネスでは決して得られない極めて排他的な人脈と情報網を手に入れています。アートを購入することは、グローバルな上流社会への「入場料」を支払う行為と同義なのです。