2019年4月、東京大学の入学式で述べられた上野千鶴子の東大祝辞は、「頑張っても公正に報われない社会が待っている」「恵まれた環境を、恵まれない人々を助けるために使ってほしい」というメッセージが大きな共感を呼び、公式動画の再生回数が数百回万回に達する社会現象となりました。このスピーチを活字化した書籍も大きな注目を集めました。
一方で2023年、週刊文春によって報じられた「歴史学者・色川大吉氏との極秘入籍」のニュースは、生涯シングルを掲げてきた論客の変節ではないかと世間を騒然とさせました。しかし、関係者の証言や自著・寄稿文で明かされた上野千鶴子の結婚の真相は、ゴシップ的な憶測とは全く異なるものでした。
当時90代半ばで重度の認知症を患っていた色川氏の介護と看取りを一手に引き受けていた上野氏は、現行の日本の法制度において「配偶者以外の第三者」が直面する数々の行政的障壁に直面しました。病院での同意書へのサイン、預貯金の解約、死後の遺体引き取りや埋葬手続きに至るまで、血縁や法的な婚姻関係がなければ門前払いされる現実がありました。
上野氏は色川氏の最晩年に至り、看取りと死後事務を全うするための「実務的手段」として入籍手続きを行い、逝去後に粛々と婚姻関係を解消しています。この事実は、彼女自身が『ケアの社会学』や『在宅ひとり死のススメ』で長年告発し続けてきた「婚姻関係・血縁家族に過度に依存した日本の社会保障制度の不備」を、自らの身をもって証明する出来事でした。