ネット上の情報コラムやSNSの投稿で頻繁に見かける言説に、「足元で寝る猫は飼い主を下に見ている」「頭元で寝る猫は自分をボスだと思っている」という主従関係論があります。犬の群れ社会をベースにした上下関係の理論を、そのまま猫に当てはめた典型的な誤謬です。
単独行動を基本とする猫の生態系には、オオカミのような厳格な縦社会やリーダーへの絶対服従という概念は存在しません。猫の縄張り意識と寝床の選び方を支配しているのは、「上下の格付け」ではなく「テリトリー内の安全管理と快適性の追求」です。
足元を定位置とする猫は、飼い主を軽んじているどころか、むしろ室内という縄張り全体のセーフティガードを担っているケースが多々あります。足元は部屋全体のドアや窓を見渡しやすい視界の開けた場所であり、侵入者や異変を察知した際に真っ先に迎撃・逃走できる防衛拠点です。飼い主の足の温もりで安心を得ながらも、いざというときは自力で身を守るという「賢明な自立心」の現れにすぎません。
さらに、猫は睡眠中に体温調節を緻密に行う動物です。一晩の間に頭元から足元、あるいはベッド脇のキャットタワーへと移動を繰り返すのは、布団の中の湿気や室温の変化に応じて「最も心地よいサーモスタット環境」を探し求めている結果です。愛情の薄れや順位付けの変動と短絡的に結びつける必要は毛頭ありません。