急変が起こる際、人体は必ずいくつかの物理的・生理的なシグナルを発しています。これらを早期に察知することが、慌てふためいて無用な救命処置(心臓マッサージや挿管など本人の尊厳を損なう医療)を避け、穏やかな看取りへと導く鍵となります。
1. 膵臓癌最期の意識混濁と終末期せん妄
最期が数日から1週間程度に迫ると、膵臓癌最期の意識混濁が顕著になります。昼夜を問わず眠っている時間(傾眠)が長くなり、目を覚ましていても焦点を合わせることが難しくなります。また、約8割のがん終末期患者に「終末期せん妄」が観察されます。「天井に誰かがいる」「仕事に行かなければならない」といった辻褄の合わない発言や、空間を掴むような手の動き(無意味運動)が見られます。これは認知症ではなく、肝不全や腎不全に伴う高窒素血症、あるいは脳血流低下によって生じる生理現象です。否定したり正そうとしたりせず、優しく相槌を打って安心感を与えることが大切です。
2. 膵臓癌終末期バイタル低下と循環動態の崩壊
死期が近づくと、心臓のポンプ機能が急速に減退し、膵臓癌終末期バイタル低下が不可避的に進行します。血圧が収縮期80mmHgを下回り、手首の脈(橈骨動脈)が触れにくくなります。全身の血液を脳や心臓などの重要中枢へ優先配分するため、毛細血管の収縮が起こり、足先や指先が氷のように冷たくなります。皮膚には紫色や赤紫色のまだら模様(網状皮斑・モットリング)が膝頭や足背から広がり始めます。さらに、腎血流の枯渇により尿量が激減し、濃縮された褐色尿が出たのち、完全な無尿状態へと向かいます。
3. 死期直前の決定打となる「下顎呼吸死期前兆」
死期が数時間から半日前後に迫った段階で現れる最も決定的な呼吸変化が、下顎呼吸死期前兆です。大脳の呼吸中枢が機能を停止し、最下部の延髄のみによって呼吸運動が制御されることで起こる現象です。胸やお腹の動きが止まり、息を吸い込む際に下顎をカクンとしゃくり上げるように動かし、口を大きく開けてあえぐような呼吸を繰り返します。
一見すると呼吸困難で激しく苦しんでいるように見えますが、この段階では脳の知覚機能はすでに停止しており、患者本人は一切の苦痛を感じていません。家族が呼吸の音に過剰な恐怖を抱く必要はなく、「旅立ちのための準備が最終段階に入ったサイン」として静かに寄り添うことが医学的に求められます。