スタンドが荒れ狂い、怒号が飛び交う中で、当事者であるグラウンドの選手たちは何を思っていたのか。5打席連続で敬遠された松井秀喜本人は、表情ひとつ変えずに一塁へと歩き続けた。バットを静かに置いてベースに向かうその姿には、悔しさや憤りを一切外に出さない圧倒的な自己コントロールが存在していた。星稜の矢ノ原監督をはじめとするベンチも、相手の徹底した作戦に対して抗議の素振りを一切見せず、淡々と試合を進めた。
一方の明徳義塾のマウンドに立っていた河野和洋投手もまた、極限の精神状態に置かれていた。球場全体から浴びせられるブーイングと怒号。捕手のミットが大きく外側に外れるたびに、スタンドからの威圧感は増していった。しかし、チームの勝利という一つの目的のために、投手も捕手も与えられた役割を全うした。あの異質な空気の中で、両チームの選手たちが保っていた冷静さと自制心こそが、この事件のもう一つの真相と言えるだろう。