膳が運ばれてきた瞬間、漆黒のおひつから溢れ出る香気に心を奪われますが、ここで焦ってそのまま食べ進めてはなりません。あつた蓬莱軒が長年推奨し、常連客の間でも鉄則とされているのが「おひつの中をしゃもじで十文字に4等分する」作法です。計算し尽くされた味の変化を堪能するためのロードマップは以下の4段階で完結します。
【一の杯:素材本来の直球を味わう】
まず4分の1をお茶碗によそい、薬味や出汁を一切使わずにそのまま口へ運びます。紀州備長炭がもたらす外側のクリスピーな食感、内側の柔らかな脂の乗り、そして150年の歴史を誇る秘伝ダレの深みをダイレクトに舌で受け止める段階です。
【二の杯:薬味の清涼感とのマリアージュ】
次の4分の1を茶碗に移し、添えられた細切りの青ネギ、刻み海苔、本わさびを散らします。濃厚なうなぎのコクにわさびのツンとした辛みとネギの芳香が重なり、脂の重さを瞬時にリフレッシュさせる見事な味の転換が楽しめます。
【三の杯:特製出汁を注ぐ贅沢なうな茶漬け】
さらに4分の1を取り、二杯目同様に薬味を乗せた上から、熱々の特製吸い地(出汁)を惜しみなく注ぎ入れます。出汁の熱によってうなぎの脂とタレが溶け出し、上質なスープへと昇華。さらさらと喉を通り抜ける快感は、まさにひつまぶし体験のクライマックスと言えます。
【四の杯:自らの嗜好と対話する至高の締め】
最後のお茶碗は、これまでの3つの食べ方の中で「最も感動したスタイル」を自ら選んで再現します。薬味を増量した二杯目を選ぶか、濃厚な出汁茶漬けで締めくくるか、あるいはタレご飯の素朴な美味さに戻るか――食の主権が完全に食べ手へと委ねられる瞬間です。
なお、訪れる前に把握しておくべき主要なお品書きと価格の指標は以下の通りです。近年の原材料高騰や炭火資材の変動を受けつつも、老舗としてのクオリティを死守する価格設定が維持されています。