ネット上の情報やSNSの口コミには、科学的根拠を欠いた誤解が数多く流布しています。その筆頭が「買ってきたら鮮度を落とさないためにすぐ冷蔵庫の野菜室に入れる」という保存法です。これは桃の美味しさを自ら奪う致命的なミスと言わざるを得ません。
桃は熱帯・温帯原産の果実であり、冷気に極めて弱い性質を持っています。5度以下の冷蔵環境に長時間さらされると「低温障害」を引き起こし、果肉が水分を失って茶色くボソボソになり、特有の甘い香り成分であるラクトン類のエステル結合が阻害されます。結果として、糖度計の数値上は甘くても人間の舌ではまったく甘みを感じられない「味の抜けた冷たい塊」に変貌してしまいます。
また、「無傷でツヤツヤの綺麗な桃が最も高級で美味しい」という思い込みも危険です。贈答用の化粧箱に収まる桃は見栄えが最優先されるため、果皮に傷ひとつない均一な赤みのものが重宝されます。しかし、自宅用として本当に甘い実を求めるならば、多少の色ムラがあっても表面に果点がびっしりと現れ、お尻が完全に抜けて熟した「実力派」を選ぶべきです。見た目の美しさと味の純度は、必ずしも一致しないという現実を認識しておく必要があります。