栗料理の最高峰ともいえる「渋皮煮」を作る際、欠かせない調味料が「重曹(炭酸水素ナトリウム)」です。料理書で当たり前のように指示される「重曹を入れて茹でこぼす」という工程ですが、なぜ重曹を使うのか、その科学的根拠を理解している人は多くありません。
栗の渋皮には、植物の細胞同士を強固に接着する多糖類「ペクチン」と、強烈な渋み・えぐみの元となるポリフェノールの一種「タンニン」が凝縮されています。重曹を水に溶かして加熱すると弱アルカリ性水溶液となり、このアルカリがペクチンを速やかに加水分解して軟化させます。同時に、タンニンを効率よく水中に溶出(アク抜き)させる働きを持っています。つまり、重曹は頑固な渋皮をトロトロに柔らかくし、えぐみを取り除くための「天然の化学分解剤」として機能しているのです。
YouTube「こりすクッキングチャンネル」をはじめとする製菓のプロたちが発信している知見に基づくと、渋皮煮で絶対に失敗しないためのコツは以下の3点に集約されます。
第一に、鬼皮を剥く段階で渋皮に刃を一切入れないことです。少しでも果肉が露出すると、重曹で煮ている最中にそこからデンプンが流出し、実がパックリと割れて煮崩れてしまいます。第二に、火加減は徹底して弱火を保つことです。ボコボコと沸騰させると栗同士が衝突して破損するため、鍋底から細かな気泡が静かに立ち上る温度(85〜90℃前後)を維持します。
第三に、丁寧な筋取りとアク抜きの反復です。重曹水で10〜15分煮ると煮汁が真っ黒になります。茹でこぼしたあと、指の腹や竹串、爪楊枝を使い、渋皮の表面を走る太い導管(黒い筋)やけば立ちを優しくなぞるように取り除きます。All Aboutの「毎日のお助けレシピ」でも提案されているように、柔らかいキッチンスポンジやナイロンたわしを使って流水下で優しく撫でると、果肉を傷つけずに余分な渋皮の繊維だけを均一に落とすことができます。この重曹茹でと水洗いを2〜3回繰り返すことで、ベルベットのように滑らかな口当たりの極上渋皮煮が完成します。