『鴻門之会』は大きく4つの重要シーンで構成されています。学校の授業や試験対策で必ず押さえておくべき原文の響きと、臨場感あふれる現代語訳を照らし合わせて確認しましょう。
シーン1:沛公の弁明と宴の始まり(沛公旦日従百余騎〜)
【書き下し文】
沛公旦日百余騎を従へて来たりて項王に見え、鴻門に至り、謝して曰はく、「臣項羽と力を戮せて秦を攻む。将軍は河北に戦ひ、臣は河南に戦ふ。然れども自ら意はざりき、先に関中に入りて秦を破ることを得て、復た将軍と此に見えんとは。今者小人の言有り、将軍をして臣と郤有らしむ」と。項王曰はく、「此れ沛公の左司馬曹無傷が言ふ所なり。此れに非ずんば、籍何を以てか此に至らん」と。
【現代語訳】
翌朝早く、劉邦はわずか100騎余りの従者を連れて項羽に謁見するため鴻門に到着し、平身低頭して謝罪した。「私(臣)は将軍(項羽)と力を合わせて秦を攻めました。将軍は黄河の北で戦われ、私は黄河の南で戦いました。しかし、思いがけず私の方が先に関中に入って秦を破り、ここで再び将軍とお目にかかることができるとは夢にも思っておりませんでした。いま、つまらない小人の告げ口があり、将軍と私との間に溝を作ろうとしております」。項羽はあっさりと答えた。「これは貴殿の部下である左司馬の曹無傷が言ったのだ。彼が言わなければ、私がどうして疑ったりしようか」。
シーン2:范増の謀略と「項荘の剣の舞」(范増数目項王〜)
【書き下し文】
范増数目項王、佩ぶる所の玉玦を挙げて以て之に示すこと三たびす。項王黙然として応ぜず。范増起ちて出で、項荘を召して謂ひて曰はく、「君王の人と為りや忍びず。若入局して前みて寿を為せ。寿畢へなば、請ひて剣を以て舞ひ、因りて沛公を坐上に撃ちて之を殺せ。不者んば、若が属皆且に其の擒とする所と為らんとす」と。
【現代語訳】
軍師の范増は何度も項羽に目配せし、身につけていた玉玦(決断を促す環状の玉)を掲げて劉邦を殺すよう3度も合図した。しかし項羽は黙り込んだまま応じない。苛立った范増は席を立ち、項荘を呼んで命じた。「我が主君(項羽)は情に流されて非情になりきれない。お前が中に入って長寿の祝杯を捧げよ。それが終わったら『剣の舞を披露したい』と願い出て、隙を見て座席の劉邦を斬り殺せ。さもなければ、お前たち一族はみな劉邦の捕虜となるだろう」。
宴席に戻った項荘が剣を抜いて舞い始めると、劉邦の危機を察した項伯が自らも剣を抜いて立ち上がり、劉邦を自らの体で覆い隠すように舞ったため、項荘は劉邦を斬ることができませんでした。
シーン3:樊噲の乱入と豪快な直訴(於是張良至軍門、見樊噲〜)
【書き下し文】
樊噲項王に見ゆ。頭髪上指し、目眦尽く裂く。項王剣を按じて跽きて曰はく、「壮士。之に巵酒を賜へ」と。則ち与ふるに斗巵の酒を以てす。噲拝謝して起ち、立ちながらにして之を飲む。項王曰はく、「之に彘肩を賜へ」と。則ち与ふるに生の彘肩を以てす。樊噲其の盾を地に覆せ、彘肩を其の上に加へ、剣を抜きて切らしりて之を食らふ。項王曰はく、「壮士、能く復た飲むか」と。
【現代語訳】
張良の知らせを受けた樊噲が、盾で門番を薙ぎ倒して陣中に乱入した。その凄まじい気迫は、頭髪が逆立ち、まなじりが裂けんばかりであった。項羽は驚いて剣の柄に手をかけ、身構えて「剛勇の士よ!酒を与えよ」と言った。大杯の酒が出されると、樊噲は一気に飲み干した。項羽が「豚の肩肉を与えよ」と言うと、生の豚肉が出された。樊噲は盾をまな板代わりに置き、剣で肉を切り刻んで平然と食らい尽くした。項羽が「まだ飲めるか」と問うと、樊噲は堂々と項羽の不義理を責め立て、劉邦の忠誠を弁護した。
シーン4:劉邦の脱出と范増の怒り(沛公起如厠〜)
【書き下し文】
沛公起ちて厠に如き、因りて樊噲を招き出づ。張良留まりて謝す。項王玉璧を受領し、之を座上に置く。亜父玉斗を受領し、之を地に置き、剣を抜きて撞きて之を破り、曰はく、「ああ、豎子と共に謀るに足らず。項王の天下を奪ふ者は、必ず沛公ならん。吾が属今に其の擒と為らん」と。
【現代語訳】
劉邦は「厠(トイレ)に行く」と偽って席を立ち、樊噲とともに間道を通って陣営へと脱走した。残された張良が謝罪の品として項羽に白玉の璧(へき)を、范増に玉の酒器(玉斗)を献上した。項羽は素直に玉璧を受け取って座席に置いたが、激怒した范増は玉斗を地面に叩きつけ、剣で粉々に砕いて言い放った。「情けない!青二才(項羽)とは到底大業など謀れない!項王の天下を奪うのは間違いなく劉邦だ。我らはやがて奴の捕虜となるに違いない!」。