木へんの漢字を語るうえで、最も人々の情緒を惹きつけてやまないのが「木へんに春・夏・秋・冬」を組み合わせた4つの漢字です。これらの漢字は単にカレンダー上の季節を記号化したものではなく、古代の人々の自然観察眼と、日本人の繊細な美意識が交錯した結果として生まれました。
春:椿(つばき)
中国の原義において「椿」は、古代思想書『荘子』に登場する「八千歳を春とし、八千歳を秋とする」伝説の長寿巨樹(大椿=センダン科の樹木)を指していました。しかし、日本にこの文字が伝来した際、先人たちは「春の訪れとともに艶やかな赤や白の花を咲かせ、冬でも青々とした葉を保つ木」として、日本固有のヤブツバキにこの字をあてはめました。これはいわば言葉の輸入における見事な「国訓(文字の原義とは別に日本独自の意味を付与すること)」の代表例です。
夏:榎(えのき)
榎の字は「木+夏」から成ります。ニレ科の高木であるエノキは、初夏から夏にかけて驚くほど青々と繁茂し、巨大な樹冠を広げて涼しい緑陰を作り出します。かつて江戸幕府が一里塚を整備した際、街道を行く旅人が夏の強烈な直射日光を避けて休息できるよう、徳川家康の命によって植えられたのがエノキでした。「夏の旅人に憩いの影を与える木」という生活実感が、この字の成立基盤となっています。
秋:楸(ひさぎ/キササゲ)
「木+秋」で表される楸は、現代では目にする機会が減ったものの、古典文学や漢詩には頻出する由緒正しい樹木です。ノウゼンカズラ科のキササゲなどを指し、秋になるとササゲに似た細長い実を結び、他の木々に先駆けて秋風とともに葉を落とす姿から「秋を告げる木」として位置づけられました。古くから碁盤の最高級材としても珍重され、文人墨客に愛された歴史を持ちます。
冬:柊(ひいらぎ)
モクセイ科の常緑小高木であるヒイラギは、葉の縁に鋭いトゲを持ちます。古語の「ひひらぐ(疼く、痛む)」が語源であり、触れると痛む葉の性質を表しています。そして何より、多くの植物が枯れ果てる初冬(11〜12月頃)に、純白の小花を咲かせて清冽な芳香を放ちます。「冬の厳寒のなかで凛として花を咲かせる木」という生態的特徴から、まさに冬の象徴としてこの漢字が定着しました。