寝覚の床で水難事故が頻発する最大の理由は、視覚的な美しさと実際の流体力学的危険性との間にある巨大なギャップにあります。現地を訪れた者が最初に感じる「雄大で静かな水辺」という第一印象こそが、最初の罠となります。
第一の要因は、侵食によって形成された複雑な水中地形です。花崗岩が水流と小石で削られてできた「甌穴(ポットホール)」や深い淵は、外見からは底の深さや渦の流れを判別できません。一度水中に引き込まれると、下向きの渦流(ダウンカレント)によって水底へと引きずり込まれ、ライフジャケットを着用していない状態では自力脱出が極めて困難になります。
第二の決定的な要因が、上流に位置するダム放流の危険性と木曽川の急激な増水です。木曽川流域は水力発電が盛んであり、上流には複数のダムや発電施設が存在します。上流山間部での降雨や電力調整に伴うダム放流が始まると、寝覚の床周辺の水位はわずか数分から数十分で数十センチから1メートル以上跳ね上がります。
晴天であっても上流で雨が降っていれば急激な増水が発生し、中州や岩場に取り残される孤立事故に発展します。現地にはサイレン設備や電光掲示板が設置されていますが、轟音を立てる川のせせらぎや風音によって警告サイレンを聞き逃してしまうケースも指摘されています。