大瀧詠一の代表作の多くは、作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一という黄金コンビによって生み出されてきました。しかし、「幸せな結末」のクレジットに記された作詞者は「多羅尾伴内」。これは大瀧詠一が昭和の痛快探偵映画の主人公(片岡千恵蔵主演)から拝借した、最も親しみ深いペンネームです。なぜ盟友・松本隆ではなく、大瀧自らが作詞を行ったのでしょうか。
表面的な理由としては、当時の松本隆の過密スケジュールやタイミングの兼ね合いが語られることもあります。しかし、本質的な理由は「メロディと音韻の一致」、そして「ドラマの進行に合わせた細密なチューニング」を大瀧自身の手で完結させる必要があった点にあります。
大瀧詠一は「多羅尾伴内」の名義を使う際、常に職人としての実験精神やパロディ精神を全開にしてきました。本作における大瀧は、ドラマの台本を1話ごとに綿密に読み込み、木村拓哉演じる片桐哲平と、松たか子演じる上杉理子の会話のリズム、言葉のトーンを徹底的に研究しました。松本隆の持つ文学的で叙情詩的な抽象美とは異なり、ドラマの劇伴として流れた瞬間に視聴者の耳へダイレクトに突き刺さる「平易で日常的な言葉」と「ポップスの音韻(ライム)」をミリ単位で合致させるため、自らペンを執る道を選んだのです。