「今夜月の見える丘に」の歌詞を読み解くと、稲葉浩志の卓越した人間洞察と詩的センスに圧倒される。車椅子生活を送るヒロインと、彼女を不器用に、けれど真っ直ぐに愛する美容師。身体的な障壁だけでなく、誰もが心の中に抱えている「見えない車椅子」や「心の壁」をどう乗り越えるかというテーマが、生々しい言葉で描かれている。
《例えば どうにかして 君の心の中 見つめられればいいのに》という吐露は、他者を完全に理解することの不可能性と、それでも理解したいと願う痛切な祈りそのものだ。月という普遍的かつどこか孤独なモチーフを見上げる二人の距離感。単なる甘いラブソングに終始せず、人間の弱さやエゴ、不条理を受け入れた上で差し込む一筋の光を描いたからこそ、この曲は今も聴く者の涙腺を刺激してやまない。