1985年7月21日に発売された通算45枚目のシングル『愛傷歌』は、森昌子さんの歌手人生における集大成と呼ぶにふさわしい重厚な哀愁歌です。本作を手がけたのは、日本作詩家協会会長も務めた昭和演歌の重鎮・石本美由起氏と、数々の国民的メロディを生み出した大作曲家・三木たかし氏の黄金コンビでした。
『愛傷歌』の歌詞は、愛する人との別れによって心に負った深い傷を抱えながら、それでも前を向いて生きようとする女性の宿命的な哀歓を描いています。「愛に傷つく」という痛切なテーマは、奇しくも当時の森昌子さんが置かれていた、芸能界の喧騒と孤独、そして自らの青春を犠牲にして歌と向き合ってきた生き様そのものと恐ろしいほどに重なり合っていました。
三木たかし氏による旋律は、短調の物悲しいストリングスから始まり、サビに向かって感情が激しく波打つドラマチックな展開を持っています。三木氏は森昌子さんの類まれな高音の伸びと、咽び泣くようなこぶしの美しさを極限まで引き出すキー設定を行いました。レコーディング現場において、彼女の歌声を聴いた関係者が言葉を失うほどの迫力と哀愁が満ちていたと当時の音楽プロデューサーは証言しています。
失恋歌としての普遍的な美しさを持ちながら、森昌子さんという希代の表現者が自身の歌手人生を投影したことで、『愛傷歌』は単なる演歌の枠組みを超え、彼女の引退記念碑的な魂の絶唱へと昇華されたのです。