なぜエプスタインは、2000年代初頭の段階で捜査線上に浮上しながら野放しにされ続けたのか。その背景には、2008年にフロリダ州で結ばれた異例の「不起訴合意」が存在する。当時、アメリカ合衆国司法省の連邦検察官が主導したこの司法取引により、終身刑に相当する重大犯罪を犯していたエプスタインはわずか13カ月の禁錮刑(しかも日中はオフィスへ外出可能)で罪を免れた。
連邦捜査局(FBI)による再捜査と2019年の再逮捕、そしてニューヨークの勾留施設でのエプスタインの不審死を経て、司法省監察総監室は当時の勾留体制や過去の捜査不備に関する調査報告書を公表した。刑務所の監視カメラの不具合や看守の職務怠慢など、数々の失態が重なった結果としての死は、被害者から法廷での対決の機会を永遠に奪うことになった。司法機関が権力者に屈し、正義を機能させられなかったという汚点は、今もなお米国の法秩序に重い影を落としている。