ネットやSNSで時折話題にのぼる「美容室脳卒中症候群(Beauty Parlor Stroke Syndrome)」という病名をご存知でしょうか。おどろおどろしい名称から都市伝説のように捉えられがちですが、れっきとした医学的症例として報告されている事実です。1993年、アメリカの神経内科医マイケル・ワイントローブ博士が権威ある医学雑誌『JAMA』に症例報告を掲載したことで、世界的な注目を集めました。
真相として知っておくべきは、首を過度にかしげた状態で固定されることにより、椎骨動脈が圧迫されるだけでなく、動脈の内膜が裂ける「動脈解離」を引き起こしたり、血栓が形成されて小脳梗塞を誘発したりするメカニズムです。軽度であれば「立ち上がった際のふらつき」や「一過性の吐き気」で治まりますが、重篤なケースでは手足の脱力、言語障害、視野狭窄(しやきょうさく)といった脳卒中特有の症状へと発展します。
ただし、過度なパニックは禁物です。脳神経外科の専門医らによると、日常的に健康な血管を持つ若年層が一度のシャンプーで即座に重篤な脳梗塞を起こす確率は統計上極めて稀とされています。しかしながら、動脈硬化が進む40代以降の世代や、もともと偏頭痛・低血圧・頸椎症の持病がある人にとっては、決して無視できないリスク要因です。「少しクラクラするけれど、美容師さんに申し訳ないから」と我慢を重ねることこそが、最も避けるべき危険行為に他なりません。