『枕草子』第一段の幕開けを飾る「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」。ここで描かれているのは、完全に夜が明けた「朝」ではなく、夜から朝へと移り変わるかすかな時間帯である「あけぼの(曙)」の情景です。
古文単語の「やうやう(ようよう)」は、漢字で「漸々」と書き、「次第に」「だんだんと」という時間の経過に伴う緩やかな変化を表します。漆黒の闇に包まれていた東の空が、一気にではなく、息をひそめるように少しずつ白味を帯びていく様子を捉えています。
清少納言が捉えたのは、静止画としての風景ではなく、光が刻一刻と増していく「動的なグラデーション」です。薄暗い闇から白へと変わり、さらにそこへ紫がかった雲が細く棚引くという、色彩と形状の緻密な対比が、読者の脳裏に鮮やかな映像美を浮かび上がらせます。