鎌倉時代中期にあたる建長6年(1254年)、前伊賀守であった橘成季の手によってまとめられた『古今著聞集』は、序文に記された通り「古今のすぐれた話を聞き集める」という目的で編纂されました。当時、政治の実権は完全に鎌倉幕府へ移行し、かつて栄華を極めた平安王朝の貴族階級は急速に衰退期を迎えていました。
六条宮(順徳天皇の皇子である雅成親王)に仕えた実務官僚・文化人であった橘成季は、武士の時代への移行によって失われゆく王朝の栄華、故実、芸能、道義をなんとしても文字として固定化し、後世へ継承せねばならないという切迫した危機感を抱いていました。この文化保存への情熱が、全20巻・30篇・約700話という膨大なスケールの編纂事業を突き動かした原動力です。
構成は「神祇」「政道」「文学」「和歌」「音楽」「武勇」「孝行」など多岐にわたり、古代から鎌倉初期にいたる説話が分類・整理されています。『古今和歌集』の部立てを強く意識した体系的な配列からは、単なるゴシップ集ではなく「中世貴族社会の百科事典」を構築しようとした編者の並々ならぬ執念が読み取れます。