投扇興の競技において、最も審判の眼力が試されるのが投扇興蝶と枕の判定基準です。競技者は約一間(約1.8メートル)離れた位置から正座して扇を投じますが、点数が発生するためには「扇が蝶に触れていること」あるいは「蝶が枕から離れていること」など、厳格な物理的条件を満たさなければなりません。
競技現場でしばしば議論を呼ぶのが、蝶が枕から完全に落ちず、端に引っかかって斜めに静止しているようなグレーゾーンの判定です。浅草投扇興保存振興会の競技基準では、蝶の底面や羽がわずかでも床面(畳)に触れていれば「落ちた」とみなされる一方、枕の角でバランスを保って浮いている状態は「立ち蝶」として高得点役の判定材料に昇格することがあります。わずか1ミリの傾きが、1点から十数点への跳ね上がりを左右する緊迫感が畳の上に漂います。
さらに勝負をスリリングにしているのが、投扇興過料マイナス点理由として定められたペナルティ規定です。代表的なものが以下の過料です。
- 手習い(マイナス1点):投げた扇が蝶にまったく触れず、枕も落とさず空振りに終わった状態。
- 野分(マイナス5点〜10点):勢い余った扇が枕を直撃し、枕ごと吹き飛ばして床に倒してしまう重過料。
- 過料全般の精神:道具を乱暴に扱い、雅な場を壊したことに対する「礼儀作法の戒め」。
「なぜ的を倒したのに減点されるのか」と疑問を持つ初心者も少なくありません。しかし伝統遊戯の研究者や審判関係者は口を揃えて、「投扇興は破壊のゲームではなく、調和のゲームである」と証言します。相手を威嚇するような強打を戒め、扇の風圧と柔らかい接触によって美しく的を落とす動作を評価するため、枕を倒す行為には重いマイナス点が課される構造になっているのです。