なぜ同一の組織切片上で、特定の部位だけが赤く、別の部位が青く染まるのでしょうか。この現象を支えているのが、組織の透過性(間隙の粗密)と色素の分子量、そしてポリアシッド(リンモリブデン酸やリンタングステン酸)の分別・媒染作用です。 染色工程は論理的な3段階の物理化学反応で構成されています。 第一段階では、切片全体を酸性フクシンやポンソー3Rなどの赤色酸性色素で染色します。この時点では、密度の高い赤血球や筋組織だけでなく、間隙の粗い膠原線維もすべて赤く染まります。これらの赤色色素は比較的小さな分子量(酸性フクシン:約585)を持っています。 第二段階が、本染色の技術的中核となるリンモリブデン酸(またはリンタングステン酸)処理です。リンモリブデン酸は巨大な錯体分子であり、構造が緻密な筋線維や赤血球の内部へは容易に侵入できません。しかし、網目構造が粗く透過性の高い膠原線維には速やかに浸透します。ここでリンモリブデン酸は、膠原線維に弱く結合していた赤色色素を追い出す「分別剤」として作用すると同時に、膠原線維のアミノ基と結合して次の色素を受け入れる「媒染剤(架橋)」の役割を果たします。 第三段階で、高分子量の青色酸性色素であるアニリン青(分子量約799)を作用させます。アニリン青はその分子サイズの大きさゆえに、緻密な筋組織には入り込めず、すでにリンモリブデン酸によってコーティングされた膠原線維にのみ選択的かつ強力に吸着します。この緻密な置換反応により、筋組織の赤と膠原線維の青という劇的なコントラストが完成するのです。
マッソントリクローム染色の原理と判別法|膠原線維の染め分けと失敗回避術
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